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一応、風景写真がメインです

細田守アニメ「人物に影がない」その理由と安彦良和氏のガンダム第一原画

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ちょっと前の話になりますが、日テレ「世界一受けたい授業」という番組で「細田守監督のアニメの人物になぜ影がないのか」ってなことをやってました。
私の場合、この監督のアニメは「サマーウォーズ」をテレビで見たくらいなので詳しくはないのですが、人物の顔なんかに影が全くないってことに気づいてなかったのでまずそのことに驚きました。
そんな意味不明なことをするマトモな理由なんてあるのか??とめちゃくちゃ不思議で、普段見ない番組に釘付けになったのですが、監督が語る理由はだいたい以下のようなものでした。
理由は2つです。
※うる憶えですので間違いがあればご指摘ください

・日本が誇る浮世絵は人物画も素晴らしいが、影など全くない。それゆえ影などがなくても人物を表現するのに問題はない

・人物の影なんかに作画の労力を使うくらいなら他の作業に力を入れて作品のクオリティを上げたほうがいい

非常に興味をもったこだわりだったのですが、やはりその理由は私から言わせればクソみたいなものでした。
浮世絵の人物画がすごいかどうかは置いといて、人物などに影の描写がないのはその技術やそもそも絵の具の問題でしょうよ。そんな今から何百年も前の古い技法を今の作画に取り入れる理由がサッパリわからん。

そして影をいれるくらいなら他の作業に時間を割いて作品のクォリティ云々ですが、そもそも影をつけることをサボってる時点で相当アニメの質が下がっていると思うのは私だけでしょうか??
監督のファンの方には申し訳ないですが、この監督のアニメ映画のCMなどでみるたびに何かその作画に若干の違和感があったのはやはり人物を描写する上でめちゃくちゃ重要な「影」がないからでしょう。



私がアニメにおいて「影」の衝撃を受けたのは機動戦士ガンダムの映画版です。
作画監督安彦良和氏による「カゲ2段落ち」です。

アニメのカラーはノーマル色が指定されたあと、影をつける場合に「カゲ色」として明度を一段暗く落とした絵の具を使います。(当時のセル画の場合ですが)
安彦良和氏は当時としては珍しく更に暗いカゲ色を使い、アムロやシャアなどの人物の顔を描写する際に2段の影を使用したのです。
私がガンダムにのめり込んだのはファーストガンダムブーム末期だったので乗り遅れ気味だったのですが、小学生の私はこのカゲ2段落ちの作画の美しさに本当に惚れ込みました。

実際のアニメも美しいですが、安彦良和氏の第一原画も本当に素晴らしい。

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13年に発売された安彦良和氏のガンダム原画集を見ていただければその画力がとんでもないことがわかります。

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上は「なぜララァを巻き込んだんだ??ララァは戦いをする人ではなかった!」とアムロコクピット内でシャアを詰問する(もちろん、シャアには聞こえませんが)シーンの第一原画。
ご覧のようにオレンジっぽい色鉛筆で2段の影を指定していますが、鉛筆と黒マジックだけのラフ画だからこそ、安彦氏の画力が際立ちます。
まだ一桁の年齢だった私でも度肝を抜かれたのは無理ありませんw

映画化の際に描き直されたカットの殆どが2段カゲでして、その絵の美しさもさることながら、それによって人物の表情、心理描写が増した効果もあろうかと思います。
この作画集を編集したエヴァンゲリオン庵野秀明氏は「ガンダムIIIは世界で一番綺麗なアニメだと今でも僕は思っています」と語っていますが、ホンマおっしゃるとおりです。

日本でアニメに関わる人たちは、普通の流れとして宮崎駿氏や安彦良和氏の原画を参考にしてもよさそうなもんですが、「人物の影」を無くす選択など、クソ素人の私には全く理解できず、くだらんこだわりとしか思えません。

著作権の問題があるのであんまり画像をあげると問題ですが最後に1枚だけアップさせていただきます。

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TV版「機動戦士ガンダム」第一話の作画。

ガンダムというロボットのメカニックデザイン大河原邦男氏であって安彦氏ではないのですが、こんな他人がデザインしたややこしいものを一話目からここまで描写できるのは天才としかいいようがありません。
私は小学生のときにガンダムを死ぬほど描きましたが、模写したことがある人なら分かるでしょうけどホンマ顔の部分を含め難しいデザインなのです。

ファーストガンダムファン、安彦良和ファンの方は是非この原画集を手にとって、安彦氏の「影」の描写を堪能してください!