ROCK CD & DVD BUYER'S GUIDE III

一応、風景写真がメインです

ゴルゴ13 「2万5千年の荒野」

ゴルゴ13」という漫画のタイトルは日本人なら誰でも聞いたことあるでしょうがしかしながらあんまりこの漫画を読んだことがある人間に巡りあったことがない。
ワタシはまだまだゴルゴ13は過小評価されてるように思うんですわ。

今回、「さいとう・たかをセレクション Best of ゴルゴ13」(2003年出版)というのを取り寄せた。
リーダーズチョイス版」は読んだことがあるんですが、その次に出された原作者のチョイスによるベストセレクションです。
それに収録されていた「2万5千年の荒野」という話を紹介したい。



舞台は間もなくロスオリンピックが開催される84年、ロスから80キロ離れたヤーマス原子力発電所
その発電所のバリー技師は原発内の度重なる細かいトラブルを危惧し、所長に安全チェックのために数日間の運転停止を要請する。
オリンピックも近く、政治的にもマスコミ的にも原発をアピールする絶好の機会に停止することは有りえなく、所長は全くとりあおうとしない。後日、バリーは再びこの原発会社の会長に直訴するも、完全に厄介者扱いになってしまったバリーは難癖をつけられて原発から締め出されてしまう。

締め出されたその日は政府高官を呼んで、通常運転を開始するセレモニーとパーティが所内で行われていた。
高官の前で運転を開始した途端、トラブルが発生する。
停電による外部電源の喪失である。

自家発電機を稼働させるもオイルのチェックミスで上手く作動しない。
原子炉のトラブルを知ったパーティの出席者などがパニック状態になり、蜘蛛の子を散らすように車で逃げ惑う。

所外から様子を見ていたバリーは異変に気づき、所内へ駆けつける。
既にディーゼルも稼働しはじめており、所長たちから「問題ない」と説明を受けるバリー。
そのままNRC(原子力規制員会)へ報告へ行ってしまった所長たちを尻目に、制御室に向かったバリーは一旦下がっていた一次系の圧力と温度が再び上昇している事態に直面する。
直前の事故で発生した蒸気が圧力容器や配管などに高圧で溜まっているため、緊急冷却水が注入できないことが原因だとバリーは気づいた。



現象が多少異なるものの、福島第一原発事故の際は同じく水蒸気によって配管などの圧力が高まったために安全弁が動作しなかったことが指摘されていて、高圧力により肝心な安全機能が働かなくなるという点はこの架空の話と一致している。



NRCにて「事故があったが収束した」という報告を行なっていた所長たちの元へもこの緊急事態である「L・O・C・A(冷却水喪失)」に至りつつあるという一報が入る。
600万人のロス市民を避難させるかどうか検討に入るも、避難命令を出した場合は大パニックになるのは必至。
NRC側も決断できずにいた。

また、仮に原子炉が爆発した場合のロスアンジェルスに及ぼす影響度を算定、甚大な被害が発生しロスには住めなくなる事態が考えられた。
プルトニウム239の半減期が2万5千年、少なくともそれ以上の期間は誰も住めなくなるだろうということになり、NRC内で戦慄が走る。

バリーがいる原子炉の制御室内では別の一報が入る。
原発会社の会長が狙撃されて遺体で見つかったという。
バリーは所内に入る際、ライフルを持った東洋人を見かけており、その男の仕業と直感する。
原子炉の圧力を下げるにはあるパイプに穴を開けるしかなく、バリーはその超人的な狙撃能力がある男に依頼するしかないと決心、「放射能を浴びた」ということでパーティー出席者と共に別の地域にて隔離されていた東洋人の男、ゴルゴ13を探し出し、依頼する。

ゴルゴに提示した報酬はバリーの貯金である50万ドルと「会長狙撃の目撃者の命」というものだった。



ゴルゴだけでは配管の狙撃は無理なので、配管の構造や配置をよく知っているバリーはもちろんのこと、他の原発の所員たちも危険な任務に率先して協力します。
狙撃の足場を作るのに所員たちが防護服を着て放射線の計測をしながら、蒸気で視界が利かない状態で代わる代わる作業を行う光景・・・これなんかはやはり、福島第一原発事故直後における東電社員や自衛隊、消防隊員を想起させられます。

水素爆発、安全弁、NRC、建屋、外部電源の喪失・・その他諸々今ならば聞き慣れた語句になってしまってますが、これら語句が福島第一原発事故どころかチェルノブイリ事故の前である約30年前に書かれた漫画の中で出てくるというのはホンマ驚愕です。

例えば、中国によるチベット弾圧なんかもそうですが、「ゴルゴ13」の凄さは「先を読んでいる」部分も多く、何か世界情勢で大きな問題が発生した場合、「そういえばゴルゴでそんな話があった・・」というのが少なくありません。
今や朝日新聞を筆頭になんでもかんでも原発を叩いてるマスコミが多いですが、原発の広告を真っ先にしだしたのは朝日新聞であって、まぁ後追いで非難するのは誰でも出来る話であって、先見性も何もないそういうくだらん記事や専門書を読むよりもヘタしたらゴルゴ13のほうがずっと勉強になるということをワタシは声を大にしていいたい。
もちろん、勉強になるだけではなく娯楽性が高いのは言うまでもありません。



事故は回避され、原発会社による会見が行われた。
所長は一連の事故を制御の問題ではなく、バリーに過激派歴があり彼によるものであると説明し、バリーの直接の上司である室長にも圧力をかけてそのように説明するよう促す。
室長が圧力に屈して、デタラメの説明を行なおうとしたところにバリーが高熱の蒸気を浴びて被爆死したという一報が入った。

それでも「死人に口なし」とばかり室長に圧力をかける所長だったが、それを振り切り室長は全ての真実を会見で語り始め、全てが原発会社に問題があることを暴露する。



ここでマスコミと室長による「原発は果たして必要なのか」ということについての応酬があり、その議論に数ページを割いております。



室長はマスコミ対して語る。

「風力や太陽発電などの研究は重要ではあるものの、まだまだ実用性に乏しい」
原発は既に実用されており、20%の電力を担っている」
原発の技術に問題があるのではなく、技術者・・つまり人間に問題がある
「バリーのような秀逸な技師の育成により原発の安全性はより向上する」

それに対してマスコミは「人間のやることはまた必ず事故を起こす」と反論。
室長は「なんともいえない」と返す。
マスコミは「じゃあ、どうしたらいいんだ??」と更に問いかける。
室長は「どうしたらいいんでしょう」と繰り返すのみだった。



最後に作者のさいとう・たかをは日本では今後原発依存度が30%まで高まることを付記してこの話は終わります。


ところで話は戻って今回のゴルゴの狙撃ですが、視界が利かない中の狙撃だったため、狙撃後、バリーは実際に成功したのか確認するためにパイプに近づき、汚染された高圧の蒸気を全身に浴びて死んでしまったわけです。
汚染された蒸気を浴びるのを目撃したゴルゴに対して、死に間際のバリーは速やかに炉から退避することを促すと共に、報酬のひとつであった「目撃者の命」をここで果たすことを告げます。

ゴルゴは全く非情で「依頼されたことを遂行するのみ」というキャラクターですが、この回では意識が薄れゆく依頼者バリーに対して一本のタバコを手渡し、火をつけてあげるという珍しい場面が挿入されているのでした。