ROCK CD & DVD BUYER'S GUIDE III

一応、風景写真がメインです

映画「この世界の片隅に」とマンガ「夕凪の街 桜の国」

こうの史代の「夕凪の街 桜の国」は昔に読みました。
そのマンガも広島の原爆を題材にしていますが「はだしのゲン」のような目を背けたくなる激しい描写や直接的なメッセージ性はほぼ皆無です。
それでも戦後の広島を描くことで如何に原爆というものが恐ろしいかが静かにヒシヒシと伝わる名作です。

さて、今回公開されたアニメ映画「この世界の片隅に」は原作は読んでいないのですが、同じように戦時中の描写にしても過酷なシーンは抑えられていまして、それでも受け手側に戦争とはどういうものかを考えさせられる内容になっています。

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この広島記念公園、もともとこんな公園があったわけではありません。
原爆が落とされるまでは中島本町という繁華街で様々な商店や企業、民家が広がっていたわけで、それぞれの生活があったわけです。

この物語の主人公・すず(能年玲奈改め「のん」)もこの周辺の広島市で10代まで穏やかに過ごし、それが描かれています。
戦争が激しくなる前に結婚を機に呉へと移り、呉で終戦を迎えますが、この広島市にいた昭和8年ごろから呉での昭和21年頃までがこの映画で描かれてる期間となります。

戦争の悲惨さばかりを描写しているのかといえばそうではありません。
実はこの映画、昨日の神戸三宮の映画館でも何回も何回も爆笑が起こるほど、実はユーモアたっぷりな場面が散りばめられています。
戦時中の厳しい時代にも当然ながらそれぞれの生活には笑いもあったはずです。
明るい性格のすずの周りにも笑いは堪えなかったのです。

それにしても当時の生活の再現に対するこだわりはなかなかです。
元々原作自体が詳しく調査しているようですが、今回のアニメ化の際は片渕須直監督が何年も時間をかけて資料を集めてるだけあって、いろんな場面に「当時の生活はそうだったのかぁ~」と参考になる部分があります。

映画の途中から空襲警報やB-29焼夷弾の投下、防空壕への避難などの場面が増えていきます。
すずが嫁いだ先は呉港が見渡せる集落の端の山手のほうなんですが、呉港には当時世界最大と言われた「大和」をはじめとする軍艦が多数寄港し雄大な光景が広がっていました。さぞかし、当時の日本人としては誇りの光景だったでしょう。
それが故に戦況が悪化すると港の周辺一体に米軍から集中的に爆弾を落とされることになりますが、その空襲や日本軍の応戦などの描写が非常にリアルです。
原作同様、このアニメの絵もそれほどリアルなタッチを追求しているわけではありませんが、映画を見てると臨場感がかなりありました。

戦争を題材にはしてますが、戦争一色の物語というわけではありません。
ですが物語は場面が切り替わるごとに昭和○年○月と表示されて、それは空襲が始まる昭和19年となり、そして確実に昭和20年8月6日に近づいていきます。
誰しもが否応なく悲惨な戦争に引きずり込まれ、大事な人たちを亡くし、生き残った人たちも身体や心に傷を負います。

戦後の復興過程の昭和21年の様子も描かれていますが、原爆というのはいうまでもなく、その投下時点で生き延びても後々に病で倒れることも多く、すずの周辺でもそれを推移させる描写があります。戦争で沢山の悲惨な思いをしたすずですが、近い将来に更なる不幸が訪れることを窺わせます。

この映画を見た昨日、実は別の映画館でもう一本、大評判の「君の名は。」も見たのですが、この「君の名は。」の影響もあって(ネタバレになるので詳しくはいいませんが)、改めて原爆を落とされることを回避できなかった、何より負け戦も甚だしい太平洋戦争を回避できなかったのが心底残念でなりません。
良いも悪いもこの戦争があって今の日本があるわけですが、この日本史上最悪の大失態を決して我々は忘れてはならないと思います。
それにはこのような優れたエンターテインメント作品なんかが大きな役割を果たすでしょう。

そしてちょっと余談になりますが、この映画のエンドロールではスタッフロールの後に何とクラウドファンディングに参加した人たちの名前がずらりと表示されてました。
いやぁ~この名作のエンドロールに名前が出てくるとは寄付されたみなさんはさぞかし名誉でしょうなぁ!
(この長いエンドロールにも「絵が特異なすずの絵」という体でずっとアニメが表示されるので観客は画面に釘付け状態です)

ちなみに昨日の神戸三宮の映画館はほぼ満席状態でした。
公開されている映画館は限られているようですが、戦争を体験した世代から小学生くらいの子どもまで、テレビ放映時でもいいんで是非とも一度見てもらいたい映画です。
夕凪の街 桜の国」も是非!


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神戸の映画館にあった監督の直筆が入ったポスター。