ROCK CD & DVD BUYER'S GUIDE III

一応、風景写真がメインです

オフタイマー:30分

蒸し暑いある夜、ふと目が覚めた。またも布団の上でごろ寝の状態だったらしい。

部屋の電気はついたまま。パソコンの画面はスクリーンセーバーがかかって真っ黒だが電源は入っており、テレビもやかましく鳴っている。エアコンもガンガンだ。部屋の主自身に寝る明確な意思がなかったので仕方あるまい。

目覚まし時計を見ると夜中の3時を過ぎていた。確か2時ごろにも目覚めたはずだがまた寝てしまったらしい。
夜10時過ぎから睡魔が襲ってきて、いつもこんな感じだ。こんな起きてるんだ寝てるんだかわからない状態で何時間も過ごすのはなんとも時間が勿体無い話だ。

改めて寝る体制をとらなければならない。明日もいつものように6時に起きなければならないわけで、
あと3時間を切っている。もう風呂は明日の朝にしよう。

パソコンの電源を切る前にチラッとネットサーフィンをし、エアコンと明かりを消して寝床につくともう3時50分になっていた。
目覚まし時計をセットし、予備のために携帯のアラームもセット。
いつもテレビをつけたまま寝る僕は、テレビのオフタイマーを30分にセットした。
既に数時間寝てしまっているので、なかなか寝付けないことが予想された。


それでも多少うつらうつらしたようだが、すぐに目が覚めてしまった。
やはり浅いとはいえ長時間の転寝をしているので寝つきが悪い。
テレビはまだついており、明かりを消した部屋の中を赤や青や白にめまぐるしく照らしていた。

腕に何か硬いものを感じたので手探りで握ると、携帯である。
アラームをセットする時に寝床のすぐ近くにあるコタツ机の上にに置いたはずなのだが、それが落ちてきたのだろうか?
しかもテレビの薄明かりの中でよくよく見ると、二つ折りの携帯の液晶画面部分が折れてしまって無くなっているではないか!手元にあるのはキーボタンがついてる部分のみ。
落ちてる携帯の上に僕が寝転んで接続部分を折ってしまったらしい。携帯とはこれほど柔なものだったのか?と驚きつつも、買ったばかりの携帯だったので早くも潰してしまったと自己嫌悪に陥った。「保証はきくのだろうか」とか考えながら、片割れである液晶部分を布団の上で見つける。手に取ると、なんとも意外なことにこの液晶部分の表面と裏面が簡単に外れそうである。相当な隙間ができていた。

恐る恐る液晶画面のほうの表面を外してみると、中からおびただしいバネが飛び出してきた。
液晶・・というか、携帯などの精密機械でもこれほどのバネを使っていたのだ。10個はあるだろう数が飛び出してきて、僕の布団の上に散らばった。手元の液晶画面の裏側にも多数のバネが残っている。
元がどういう風にバネがくっついていたのかさっぱりわからないのでこの場での修理はまず無理。
あきらめてコタツの上に戻した。バネも布団の上にまだいくつか残ってるか知らないがもう明日でいい。



・・と、再び寝ようとした矢先、背後のほうで人の気配を感じた。



部屋の明かりは今テレビのみ。
パッパッと不定期な周期であたりを照らしていたが、僕が寝てる部屋の隣の部屋にもその光はかすかに漏れていた。
そこに使用していない布団が無造作に置いてあるのだが、その中から二本の足が飛び出しているのが目に入った。

僕はこの上ない恐怖に包まれた。我が家に自分以外誰もいるはずがないのだ。
暗がりでよくは見えないが、脛毛は殆どないもののその筋肉のつき方などから明らかに男の足である。
同時に携帯を潰したのはこの男だとピンときた。恐らく警察への連絡を遮断するためだろう。

とりあえず、この場から逃げなければならない。
だが、玄関に向かうには男がいる隣の部屋をまたがなければならない。
非常に恐ろしい事態だが、しかし男は何故か山積みの布団に包まれている。
男は寝ているのだろうか?

この場を突破する方法はひとつ。
僕は咄嗟に立ち上がるとそのまま走り出し、男がいる布団の山の前で大きくジャンプした。
難なく山を飛び越えると、あとはすぐ玄関だ。

身の安全を確保した僕は気丈にも飛び越えた後にその場に立ち止まり、男のほうへ振り返った。
僕の気配に気づいたのか、布団の山積みから男が顔を出した。
奥の部屋のテレビ画面の薄明かりが男の背後から照らしているだけで殆どシルエットに近いが、その男が誰だかすぐにわかった。


うちのおとんである。
鍵は2つかけており、身内でも中に入れないはずだが、そんなことはどうでもいい。

「い、いや、急にどないしたん?!」

おとんは言う。「おかんとまた喧嘩してなぁ~。もう出てきたんや」

こんな夜中にここまでどうやって??実家からは10キロ以上離れており、おとんは車を持ってるわけではないので、どうやってここまで来たのか不思議に思ったのだが、まぁそんなことが頭に一瞬過ぎったかどうか混乱してる間に、布団の山からまた別の頭が出てきた。


おかんである!!

「いやぁ~ごめんねぇ」といいながらむくっと起き上がるおかん。何故か笑顔だ。
「え~~~~っ!!?いや、喧嘩してるのになんで2人で仲良く??!」

と何がなんだかわからなく混乱しているとその瞬間、

パツン!!!

と音が鳴り、一気に部屋は静まり返った。


・・・また、目が覚めた。
部屋は真っ暗でカーテンの隙間から射すわずかな光だけ。
目覚まし時計を見ると「4時20分」を表示していた。


【完】
※この物語はノンフィクションです。